コラム:薬と副作用

歯医者に伝えて頂きたい病気と薬①

抗凝固薬ワーファリンをはじめとする抗凝固薬は脳梗塞などの血栓性・塞栓性疾患治療薬として用いられており、服用患者は数百万人とも言われています。抜歯時のワーファリン休薬は血栓塞栓症のリスクを増加させると指摘されており、ワーファリン休薬した約1%に血栓塞栓症が生じたという報告があります。抗血小板薬(バイアスピリンなど)については、休薬すると脳梗塞発症のリスクが約3倍になるとの報告があります。血栓塞栓症は一度発症すれば病態は重篤で予後不良である場合が多いです。そのため、日本循環器学会の抗凝固・抗血小板療法ガイドラインでは、「抜歯時には抗血栓薬の継続が望ましい」と明記されています。海外のガイドラインでは、PT-INRが2~4の治療域にあれば重篤な出血のリスクは非常に小さく、逆に血栓塞栓症リスクが増大するため、抗凝固薬は中止してはならないと述べられています。また、患者さんの自己判断での休薬は血栓塞栓症を誘発する可能性が高まるため避けてください。 出血リスクを小さくする方法としては、酸化セルロースまたはゼラチンスポンジなどの止血剤と縫合、圧迫が一般的に行われています。ほとんどの症例ではこれで止血できますが、後出血を生じる場合は止血シーネやサージカルパックなどを使用します。いずれにせよ、局所止血処置だけで止血可能な症例がほとんどです。抜歯後出血の原因は抗凝固薬よりもむしろ、局所の炎症、抜歯時の周囲組織の損傷、不適切な局所処置などが問題となります。 抜歯等の口腔外科処置以外でも、例えば、抗凝固薬のワーファリンと抗菌薬(ペニシリン系、セフェム系他)あるいは消炎鎮痛薬(アセトアミノフェン、メフェナム酸他)は、併用することにより抗凝固薬の血中濃度が上昇し出血リスクが増すことがあるため、併用に注意が必要です。また、口腔カンジダ症の治療に用いられる抗真菌薬のイトリゾールは抗凝固薬の作用が増強し出血リスクが増大するため、プラザキサとは併用禁忌、ワーファリンとは併用注意となっています。このように、薬剤の相互作用にも注意が必要なため、患者さんご自身が内服している薬剤を正確に歯科医師に伝えることはとても重要です。

歯医者に伝えて頂きたい病気と薬②

骨粗しょう症 ビスフォスフォネート系製剤(以下BP製剤)は、骨粗しょう症やがんの骨転移などに対し非常に有効なため、多くの方々に使用されています。しかし、最近、BP製剤使用経験のある方が抜歯などの顎骨に刺激が加わる治療を受けると顎骨壊死が発生する場合があることが分かってきました。海外での報告では、抜歯を行った場合、骨粗しょう症で、BP製剤の内服をしている患者さんでは1000人中1~3人、悪性腫瘍に対して使用されたBP製剤の注射を受けている患者さんにおいて100人中6~9人の方に顎骨壊死が生じたと報告されています。顎骨が壊死すると、歯肉腫脹・疼痛・排膿・歯の動揺・顎骨の露出などが生じます。がん患者さんの骨病変に用いられる新たな治療薬としてヒト型抗体製剤であるデノスマブが2012年に承認されましたが、BP製剤と同頻度で顎骨壊死が起こるとの報告があり3、併せて注意が必要です。 BP製剤を使用している患者さんで、歯科受診時に注意が必要な処置は以下のものがあげられます。…

歯医者に伝えて頂きたい病気と薬③

てんかん、高血圧のお薬歯ぐきは、薬の副作用でも腫れることがあります。これを薬物性歯肉肥大、または薬物性歯肉増殖とよんでいます。けいれんを止める抗てんかん薬のフェニトイン(商品名:アレビアチン、ヒダントールなど)の副作用でおこる歯肉肥大がもっともよく知られていますが、その他にも高血圧治療薬のうちカルシウム拮抗薬(商品名:ニフェジピン、アダラート、アムロジンなど)でも歯肉肥大がおこることがあります。さらに臓器移植や自己免疫の病気で用いられるシクロスポリン(商品名:サンディミュン、ネオラールなど)を飲んでいる人でも、歯肉肥大の生じやすいことがわかっています。この歯肉肥大は、若い人ほど、また服用量が多いほど重症になる傾向があります。その程度は、歯と歯の間の歯肉(歯間乳頭)が少し膨れた程度のものから、歯が完全に隠れてしまうものまであります。歯肉肥大は歯面に歯垢(デンタルプラーク)が多いと重症化することが知られています。歯肉肥大が起きたとき、服用薬を変更できればよいのですが、難しいことが多いため、日頃の歯みがきを徹底して行うこと、定期的に歯科受診して歯石を除去してもらったりすることが大切です。時には歯ぐきを切ることが必要になることもあります。

骨粗しょう症治療などに使用されている骨吸収抑制薬について

ビスフォスフォネート製剤(BP製剤)とデノスマブ(ヒト型モノクローナル抗体製剤)などの骨吸収抑制薬は骨粗しょう症や癌の骨転移などに対して非常に有効なため、多くの患者さんに使用されていますが顎骨壊死(写真)が発生する場合があります。 発生頻度としては、1000人に1人位(ただし悪性腫瘍の患者さんだけの発生頻度を算出すると100人に1人くらいに上がります)ですが、抜歯などの侵襲的歯科治療を行うと、およそ7倍以上の顎骨壊死が生じたとの報告もあります。しかしながら、骨吸収抑制薬による骨折予防などの有益な効果はリスクを上回っており、これからも医科での処方は減らないと思われます。 顎骨壊死を起こすリスク因子としては 局所性骨への侵襲的歯科治療(抜歯、インプラント埋入、歯周外科手術など)、不適合義歯による顎堤粘膜の傷、過大な咬合力、口腔衛生状態の不良、歯周炎などの炎症性疾患 全身性癌、糖尿病、関節リュウマチ、副甲状腺機能低下症、腎透析、貧血、骨バジェット病 投与期間と投与量 喫煙、飲酒、肥満 併用剤抗がん剤、副腎皮質ステロイド、血管新生阻害剤(サリドマイド、スニチニブ、ベバシズマブ、レナリドミドなど)、エリスロポエチン、チロシンキナーゼ製剤 ① 初めて骨吸収抑制剤の投与を受けられる患者さんは、歯科受診し、口腔衛生状態の把握とその改善法の指導を受け、 特に抜歯などの侵襲的歯科治療は少なくとも投与開始2週間前に終了しておくことが望ましいです。   ② すでに骨吸収抑制剤を使用している患者さんは以下の 注意が必要です。 (1) 顎骨に侵襲の及ばない一般の歯科治療(歯石除去、虫歯治療、義歯作成など) 通常通りに治療を行います。(2) 顎骨に侵襲が及ぶ歯科治療(抜歯、歯科インプラント、歯周外科など) 骨粗しょう症で骨吸収抑制剤を投与(4年未満)を受けていて他のリスク因子がない場合  全く危険がないとは言えませんが、顎骨壊死の発生頻度が低いので通常通り治療を行うことが多いです。(インプラント治療に関しては担当医に十分相談してください) 骨粗しょう症で骨吸収抑制剤を投与(4年以上)、リスク因子がある、癌治療のための投与などの場合顎骨壊死の発生頻度が高くなります。ただし対処法に関しては現在、病態のメカニズムが解明されておらず、エビデンスがない状態が続いており、施設によって違うかもしれません(なるべく保存的に治療する、休薬せずに治療する、2〜3ヶ月休薬してから治療する、口腔衛生状態を徹底的に改善してから治療する、抗菌薬の術前投与など)ので担当医と十分相談して下さい。 現在のところ、上記の処置方針に従ったとしても顎骨壊死が生じる危険性があります。 唯一統一された意見は口腔衛生指導、歯科医師による徹底した口腔管理(不適合な被せ物の修正も含む)により口腔内での感染を予防すれば顎骨壊死の発生をかなり抑えられるとしています。定期的な歯科受診をお勧めします。 骨吸収抑制剤一覧悪性腫瘍用製剤ゾメタ、アレイディア、テイロック、ランマーク(デノスマブ) 骨粗しょう症用製剤 ダイドロネル、フォサマック、ボナロン、アクトネル、ベネット、ボノテオ、リカルボン、ボンビバ、プラリア(デノスマブ) 参考文献 ビスホスホネート系薬剤と顎骨壊死 〜理解を深めていただくために〜 日本口腔外科学会 骨吸収抑制薬関連顎骨壊死の病態と管理顎骨壊死検討委員会ポジションペーパ−2016
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