喫煙直後、ニコチンの血管収縮作用により歯肉上皮下毛細血管網の血流量の減少、ヘモグロビン量及び酸素飽和度の低下を起こします。そして、長期間の喫煙につれて、逆に、炎症を起こした歯肉出血の減少をきたしてきます。
そのため、臨床的には、歯周ポケット(歯と歯肉の隙間)が深く進行した歯周炎であっても、歯周ポケットを検査した際の出血(プロービング時の歯肉出血、BOP)が少なく、歯肉のメラニン色素沈着(歯肉の赤黒い着色)もあり、歯肉の炎症症状が分かりにくくなっています。
歯周病喫煙患者において歯肉出血が少ないことは、疾患の発症や進行の自覚を遅らせることになります。さらに、ニコチンは線維芽細胞の増殖抑制、付着障害、コラーゲン産生能の低下に作用することから、臨床的には、歯肉は線維性の(硬い)深い歯周ポケットが形成され、進行していくことになります。
喫煙と歯周組織の破壊については、喫煙者では、BOPが少ないのですが、歯周ポケットの深さ(PD)、アタッチメントレベル(歯と歯根の境目から歯周ポケットの底部までの距離、CAL)、歯槽骨吸収がともに大きく、その結果、歯周炎の罹患率が高く、重度であることが分かっています。
さらに、喫煙は免疫機能に対して抑制的に作用します。ニコチンは、からだを守ってくれる好中球の貪食能や化学走化性を低下させ、マクロファージによる抗原提示機能も抑制します。また、粘膜面での局所免疫に関与する免疫グロブリンA(IgA)、細菌やウィルス、薬物に対して生体反応を示す免疫グロブリンG(IgG)の低下をもたらします。したがって、喫煙は、歯周病の最大の危険因子です。日本歯周病学会の歯周病分類9によると、喫煙関連歯周炎と診断されます。
一般的に、小児・胎児に対する受動喫煙は、気管支喘息などの呼吸器疾患、中耳疾患、胎児の発育異常、乳幼児突然死症候群、小児の発育・発達と行動への影響、小児がん、さらに、注意欠陥多動性障害(attention-deficit hyperactivity disorder, ADHD)*などの危険因子となります。同時に、受動喫煙により、歯周病、小児のう蝕や歯肉のメラニン色素沈着のリスクが高くなることが報告されています。