舌痛症とは、口の中のヒリヒリ、カーッとした痛みまたはピリピリした不快な異常感覚が、1日に2時間以上で3カ月以上にわたって連日繰り返すもので、臨床的に明らかな原因疾患を認めない病態となります。舌痛症は、正確には名前の通り、純粋に舌の痛みを訴える疾患で痛みが唯一の症状となります。言い換えると、舌や歯肉に明らかな炎症や潰瘍などの病変が存在しており、それが痛みの原因となっているとすれば、それは舌痛症とは診断しません。舌痛症は患者さんが感じる痛みが全てであり、他人が見ても異常がないので、なかなか理解してもらえない病気です。
舌痛症の痛みの程度は、時に重篤で、患者さんは痛みのために仕事ができなくなり、日常生活の障害を余儀なくされ、医療機関を受診しなければならなくなります。痛みは、心理社会的なストレスと密接な関係があることがわかっています。仕事や家庭での不安や不快な出来事が痛みを増悪させます。心理社会的要因が舌痛症のトリガー(誘因)となることが知られています。
一方、何らかの病気が背景にあって、舌痛症と同様の痛みを起こしたものを二次性の舌痛症と呼びます。何らかの病気が背景にあって、舌痛症と同様の痛みを起こしたものを二次性の舌痛症と呼びます。二次性の舌痛症をおこしうる病態を、表1に示しました。
- 全身的問題
- 糖尿病
- シェーグレン症候群
- 貧血
- 鉄欠乏性貧血
- 悪性貧血(ビタミンB12,葉酸欠乏症)
- 微量元素欠乏症(特に亜鉛)
- 脳血管障害、脱髄性疾患、ギランバレー症候群等の中枢神経障害
- 口腔乾燥や神経炎等、口腔痛を来たす薬剤の服用
- 局所的問題
- 不潔な口腔環境
- 悪習癖(舌を歯に押し当てる、唇をかむ)
- 不良な(鋭縁のある)補綴物
- 口呼吸ならびに唾液分泌障害、口腔乾燥症
- 舌神経・下歯槽神経傷害の既往(歯科治療後、帯状疱疹後神経痛)
- 放射線治療後
- 歯科材料アレルギー
- 扁平苔癬
- 口腔カンジダ症
- 単純ヘルペスや帯状疱疹(帯状疱疹後神経痛を含む)等、ウイルス感染症
表1 二次性舌痛症をおこしうる疾患・要因
どんな人が舌痛症になるの?
舌痛症の発症頻度は、全人口の0.7-3%に発症するとされており、特に更年期の女性に多く発症します。閉経後の女性における有病率は、12-18%とも言われています。舌痛症ははっきりした原因が解明されていませんが、ストレスの多い方や更年期の女性に発症しやすい傾向があるとされています。
治療方法
舌痛症は、原因が解明されていないので原因療法が存在しませんので経験的に症状を軽快させる対症療法が用いられます。舌痛症の治療では、特別な処置を行わなくても自然治癒するものも3%程度存在するとされていますが、多くの患者は長期にわたって痛みを訴えます。舌痛症のような慢性の痛みでは、痛みを0にするのではなく、日常生活の中で痛みをうまくコントロールすることで生活の質を上げることを治療の目標とします。