オーラルフレイルってご存知ですか?
”昔から人は足から老いる”と耳にします。
階段の上り下りがきつく感じて老いを感じる方も多いと思いますが、最近では”人は口から老いる”と言われ始めています。 これは近年注目され始めた「オーラルフレイル」という新しい概念です。
オーラルフレイルとは
オーラル(oral):口を使って行うこと。
フレイル(frail):高齢になることで筋力や精神面が衰える状態。
つまり「歯・口の機能の虚弱」ということです。
これらの概念は東京大学高齢社会総合研究機構の辻哲夫特任教授、 飯島勝矢教授らによる大規模健康調査(縦断追跡コホート研究)等の厚生労働化学研究によって示され、 この研究をきっかけに様々な検討が進められています。
老化の始まりを示すサイン
食事でよく食べこぼすようになった、固いものが噛めなくなりむせることも増えた。 さらに活舌も悪くなったようだ・・。
ささいな口のトラブルですが、こうした状態が続くようであれば、 それは歯や口の働きの軽微な衰え、つまり”オーラルフレイル”の可能性があります。
これらオーラルフレイルの症状は”老化の始まりを示すサイン”として注目されるようになってきました。
健康と要介護の間には、筋力や心身の活力が低下する”フレイル”と呼ばれる中間的な段階があるとされています。
その手前にある前フレイル期にオーラルフレイルの症状は現れます。
このオーラルフレイルは可逆的であることが大きな特徴の一つです。
つまり早めに気づき適切な対応をすることでより健康に近づきます。
フレイルから続く要介護状態に陥ることなく、健やかで自立した暮らしを長く保つためには、 この段階で早く気づき、予防や改善に努力することが重要であるということが分かってきました。
「歯や口の働き」に注目しましょう
歯や口にはそれぞれ本来持っている多くの「働き」ありますが、 それは専門的には「口腔機能」(こうくうきのう)と呼ばれています。
それは大きく分けると、「食べること」(噛む、すりつぶす、飲み込む、味わう)と、 「話すこと」(発音、会話、歌う)ですが、「感情表現」(笑う、怒る)や「呼吸」なども含みます。
例えば、加齢により噛む力が低下すると食事がのどに詰まりやすくなり、 またもし飲み込む力が衰えるとお茶や汁ものでむせやすくなります。
唾液の分泌が低下すると、虫歯、歯周病が進行し、口臭もひどくなります。
オーラルフレイルはこうした口腔機能の軽微な衰えを示していますが、 筋肉や心身の活力低下(フレイル)の初期症状とも考えられ、老化の最初のサインでもあるのです。
健康寿命を延ばすために
口腔機能が衰えると、話すことが減るだけでなく、 栄養状態の悪化で筋肉がやせ、体力が低下して外にでかけることも少なくなってしまいます。
つまり歯や口の働きは、「社会とつながる」ための重要な役割を担っていることがわかります。
高齢者が「社会とのつながり」を失うと、まるでドミノ倒しのように心身の活力が弱まり、 要介護になっていくことが明らかになってきました。
こうした事実から、食卓を囲み食事すること、仕事でも趣味でもボランティアでも、 楽しく会話したり体を動かすこと、つまり「口腔機能」に関心を持って、 「社会とのつながり」も維持すること、そうしたことが要介護になりにくい体となり、健康寿命を延ばす”コツ”と考えられるようになってきました。
歯周病や虫歯などで歯を失った際には適切な処置を受けることはもちろん、 定期的に歯や口の健康状態をかかりつけの歯科医師に診てもらい、 歯のクリーニングをして健康なお口の状態を保つことが健康寿命へとつながります。
オーラルフレイルの評価方法
①口腔衛生状態不良の評価 舌苔付着度(TCI)
口腔衛生状態不良の検査には、視診によりTongue Coating Index (TCI) を用いて、舌苔の付着程度を評価します。
舌表面を9分割し、それぞれのエリアに対して舌苔の付着程度を3段階(スコア0,1または2)で評価し、合計スコアを算出します。TCIが50%以上(合計スコアが9点以上)ならば口腔衛生状態不良とします。
②口腔乾燥の検査
口腔水分計による計測
口腔水分計(ムーカス,ライフ)を使用して、舌尖から約10mmの舌背中央部における口腔粘膜湿潤度を計測します。測定値27.0未満を口腔乾燥とします。
サクソンテストによる評価
サクソンテストにより唾液量計測を行います。
医療用ガーゼを舌下部に置き、2分後の重量と比較します。2分間で2g以下の重量増加を口腔乾燥ありとします。
③咬合力低下の評価
感圧フィルムによる咬合力の測定
感圧フィルムを(デンタルプレスケール,ジーシー)を用いて、咬合嵌合位における3秒間クレンチング時の歯列全体の咬合力を測定し、咬合力が200N未満を咬合力低下とします。なお、義歯装着者は、義歯を装着した状態で計測します。
残存歯数
残存歯数を計測します。残存歯数が残根と動揺度3の歯を除いて20本未満を咬合力低下とします。
④舌口唇運動機能低下の評価
オーラルディアドコキネシスにより評価します。1秒当たりの/pa/ ,/ta/ ,/ka/それぞれの音節の発音回数を計測します。/pa/ ,/ta/ ,/ka/のいずれかの1秒当たりの回数が6回未満を舌口唇運動機能低下とします。
⑤低舌圧の評価法
低舌圧の検査は、舌圧測定により評価します。舌圧測定器(JMS 舌圧測定器,ジェイ・エム・エス)につなげた舌圧プローブを、舌と口蓋との間で随意的に最大の力で数秒間押しつぶしてもらい、最大舌圧を計測します。舌圧が30kPa未満を低舌圧とします。
咀嚼機能低下の評価法
グミゼリーを用いたグルコース溶出量による咀嚼機能率検査
2gのグミゼリー(グルコラム,ジーシー)を20秒間自由咀嚼させた後、10mlの水で含嗽させ、グミと水を濾過用メッシュに吐き出させ、メッシュを通過した溶液中のグルコース溶出量を咀嚼能力検査システム(グルコセンサーGS-Ⅱ,ジーシー)にて溶出グルコース濃度を測定します。グルコース濃度が100mg/dL未満を咀嚼機能低下とします。
咀嚼能率スコア法による評価
咀嚼能率スコア表は、グミゼリー(咀嚼能率検査用グミゼリー,UHA味覚糖・アズワン)を30回咀嚼後、粉砕度を視覚資料と照合して評価します。スコア0,1,2の場合、咀嚼機能低下とします。
嚥下機能低下の評価
嚥下スクリーニング検査(EAT-10)
嚥下スクリーニング質問紙(The 10-item Eating Assessment Tool,EAT-10)を用いて評価します。合計点数が3点以上を嚥下機能低下とします。
自記式質問票(聖隷式嚥下質問紙)
自記式質問票「聖隷式嚥下質問紙」を用いて評価します。15項目のうちAの項目が1つ以上ある場合を嚥下機能低下とします。