ビスフォスフォネート製剤(BP製剤)とデノスマブ(ヒト型モノクローナル抗体製剤)などの骨吸収抑制薬は骨粗しょう症や癌の骨転移などに対して非常に有効なため、
多くの患者さんに使用されていますが顎骨壊死(写真)が発生する場合があります。
発生頻度としては、1000人に1人位(ただし悪性腫瘍の患者さんだけの発生頻度を算出すると100人に1人くらいに上がります)ですが、抜歯などの侵襲的歯科治療を行うと、およそ7倍以上の顎骨壊死が生じたとの報告もあります。
しかしながら、骨吸収抑制薬による骨折予防などの有益な効果はリスクを上回っており、これからも医科での処方は減らないと思われます。
顎骨壊死を起こすリスク因子としては
- 局所性
骨への侵襲的歯科治療(抜歯、インプラント埋入、歯周外科手術など)、不適合義歯による顎堤粘膜の傷、過大な咬合力、口腔衛生状態の不良、歯周炎などの炎症性疾患 - 全身性
癌、糖尿病、関節リュウマチ、副甲状腺機能低下症、腎透析、貧血、骨バジェット病 - 投与期間と投与量
- 喫煙、飲酒、肥満
- 併用剤
抗がん剤、副腎皮質ステロイド、血管新生阻害剤(サリドマイド、スニチニブ、ベバシズマブ、レナリドミドなど)、エリスロポエチン、チロシンキナーゼ製剤
① 初めて骨吸収抑制剤の投与を受けられる患者さんは、歯科受診し、口腔衛生状態の把握とその改善法の指導を受け、 特に抜歯などの侵襲的歯科治療は少なくとも投与開始2週間前に終了しておくことが望ましいです。
② すでに骨吸収抑制剤を使用している患者さんは以下の 注意が必要です。
(1) 顎骨に侵襲の及ばない一般の歯科治療(歯石除去、虫歯治療、義歯作成など) 通常通りに治療を行います。
(2) 顎骨に侵襲が及ぶ歯科治療(抜歯、歯科インプラント、歯周外科など)
- 骨粗しょう症で骨吸収抑制剤を投与(4年未満)を受けていて他のリスク因子がない場合 全く危険がないとは言えませんが、顎骨壊死の発生頻度が低いので通常通り治療を行うことが多いです。(インプラント治療に関しては担当医に十分相談してください)
- 骨粗しょう症で骨吸収抑制剤を投与(4年以上)、リスク因子がある、癌治療のための投与などの場合顎骨壊死の発生頻度が高くなります。
ただし対処法に関しては現在、病態のメカニズムが解明されておらず、エビデンスがない状態が続いており、施設によって違うかもしれません(なるべく保存的に治療する、休薬せずに治療する、2〜3ヶ月休薬してから治療する、口腔衛生状態を徹底的に改善してから治療する、抗菌薬の術前投与など)ので担当医と十分相談して下さい。
現在のところ、上記の処置方針に従ったとしても顎骨壊死が生じる危険性があります。
唯一統一された意見は口腔衛生指導、歯科医師による徹底した口腔管理(不適合な被せ物の修正も含む)により口腔内での感染を予防すれば顎骨壊死の発生をかなり抑えられるとしています。
定期的な歯科受診をお勧めします。
- 骨吸収抑制剤一覧悪性腫瘍用製剤
ゾメタ、アレイディア、テイロック、ランマーク(デノスマブ) 骨粗しょう症用製剤 ダイドロネル、フォサマック、ボナロン、アクトネル、ベネット、ボノテオ、リカルボン、ボンビバ、プラリア(デノスマブ)
参考文献
- ビスホスホネート系薬剤と顎骨壊死 〜理解を深めていただくために〜 日本口腔外科学会
- 骨吸収抑制薬関連顎骨壊死の病態と管理顎骨壊死検討委員会ポジションペーパ−2016