新型コロナウイルス対策では手洗いやうがい、マスクなどがあげられますが、口腔ケアも感染予防につながります。 お口の中を清潔にし、感染予防・重症化のリスクを下げ、新型コロナウイルスから身を守りましょう。
命を守るためも口腔ケアが大切です
治療の中断・延期についてはご自身で判断なさらずに「かかりつけ歯科医」にご相談ください。
てんかん、高血圧のお薬
歯ぐきは、薬の副作用でも腫れることがあります。これを薬物性歯肉肥大、または薬物性歯肉増殖とよんでいます。けいれんを止める抗てんかん薬のフェニトイン(商品名:アレビアチン、ヒダントールなど)の副作用でおこる歯肉肥大がもっともよく知られていますが、その他にも高血圧治療薬のうちカルシウム拮抗薬(商品名:ニフェジピン、アダラート、アムロジンなど)でも歯肉肥大がおこることがあります。さらに臓器移植や自己免疫の病気で用いられるシクロスポリン(商品名:サンディミュン、ネオラールなど)を飲んでいる人でも、歯肉肥大の生じやすいことがわかっています。この歯肉肥大は、若い人ほど、また服用量が多いほど重症になる傾向があります。その程度は、歯と歯の間の歯肉(歯間乳頭)が少し膨れた程度のものから、歯が完全に隠れてしまうものまであります。歯肉肥大は歯面に歯垢(デンタルプラーク)が多いと重症化することが知られています。
歯肉肥大が起きたとき、服用薬を変更できればよいのですが、難しいことが多いため、日頃の歯みがきを徹底して行うこと、定期的に歯科受診して歯石を除去してもらったりすることが大切です。時には歯ぐきを切ることが必要になることもあります。
骨粗しょう症
ビスフォスフォネート系製剤(以下BP製剤)は、骨粗しょう症やがんの骨転移などに対し非常に有効なため、多くの方々に使用されています。しかし、最近、BP製剤使用経験のある方が抜歯などの顎骨に刺激が加わる治療を受けると顎骨壊死が発生する場合があることが分かってきました。海外での報告では、抜歯を行った場合、骨粗しょう症で、BP製剤の内服をしている患者さんでは1000人中1~3人、悪性腫瘍に対して使用されたBP製剤の注射を受けている患者さんにおいて100人中6~9人の方に顎骨壊死が生じたと報告されています。顎骨が壊死すると、歯肉腫脹・疼痛・排膿・歯の動揺・顎骨の露出などが生じます。がん患者さんの骨病変に用いられる新たな治療薬としてヒト型抗体製剤であるデノスマブが2012年に承認されましたが、BP製剤と同頻度で顎骨壊死が起こるとの報告があり3、併せて注意が必要です。
BP製剤を使用している患者さんで、歯科受診時に注意が必要な処置は以下のものがあげられます。
(1)顎骨に侵襲の及ばない一般の歯科治療(歯石除去・むし歯治療・義歯作成など)
顎骨や歯肉への侵襲を極力避けるよう注意して歯科治療を行います。治療後も義歯などにより歯槽部粘膜の傷から顎骨壊死が発症する場合もありますので、定期的に口腔内診査を行います。
(2)抜歯・歯科インプラント・歯周外科など顎骨に侵襲が及ぶ治療
1)内服期間が3年未満でステロイド薬を併用している場合、あるいは内服期間が3年以上の場合は、BP製剤内服中止可能であれば、一般的には手術前少なくとも3カ月間はBP製剤の内服を中止し、手術後も骨の治癒傾向を認めるまではBP製剤は休薬していただきます。
2)顎骨壊死の危険因子(糖尿病、喫煙、飲酒、がん化学療法など)を有する方もBP製剤内服が中止可能であれば、手術前少なくとも3カ月間はBP製剤の内服を中止し、手術後も骨の治癒傾向を認めるまではBP製剤は休薬していただきます。
3)BP製剤内服期間が3年未満で危険因子のない方に対しては、通常のごとく口腔外科手術を行います。
BP製剤の休薬・再開などについては、担当(処方)医師と充分相談の上決定し顎骨壊死の発生予防に努めますが、上記の処置方針に従ったとしても顎骨壊死が生じる危険性があります。そのため、定期的な経過観察と口腔清掃の徹底が重要です。
抗凝固薬
ワーファリンをはじめとする抗凝固薬は脳梗塞などの血栓性・塞栓性疾患治療薬として用いられており、服用患者は数百万人とも言われています。抜歯時のワーファリン休薬は血栓塞栓症のリスクを増加させると指摘されており、ワーファリン休薬した約1%に血栓塞栓症が生じたという報告があります。抗血小板薬(バイアスピリンなど)については、休薬すると脳梗塞発症のリスクが約3倍になるとの報告があります。血栓塞栓症は一度発症すれば病態は重篤で予後不良である場合が多いです。そのため、日本循環器学会の抗凝固・抗血小板療法ガイドラインでは、「抜歯時には抗血栓薬の継続が望ましい」と明記されています。海外のガイドラインでは、PT-INRが2~4の治療域にあれば重篤な出血のリスクは非常に小さく、逆に血栓塞栓症リスクが増大するため、抗凝固薬は中止してはならないと述べられています。また、患者さんの自己判断での休薬は血栓塞栓症を誘発する可能性が高まるため避けてください。
出血リスクを小さくする方法としては、酸化セルロースまたはゼラチンスポンジなどの止血剤と縫合、圧迫が一般的に行われています。ほとんどの症例ではこれで止血できますが、後出血を生じる場合は止血シーネやサージカルパックなどを使用します。いずれにせよ、局所止血処置だけで止血可能な症例がほとんどです。抜歯後出血の原因は抗凝固薬よりもむしろ、局所の炎症、抜歯時の周囲組織の損傷、不適切な局所処置などが問題となります。
抜歯等の口腔外科処置以外でも、例えば、抗凝固薬のワーファリンと抗菌薬(ペニシリン系、セフェム系他)あるいは消炎鎮痛薬(アセトアミノフェン、メフェナム酸他)は、併用することにより抗凝固薬の血中濃度が上昇し出血リスクが増すことがあるため、併用に注意が必要です。また、口腔カンジダ症の治療に用いられる抗真菌薬のイトリゾールは抗凝固薬の作用が増強し出血リスクが増大するため、プラザキサとは併用禁忌、ワーファリンとは併用注意となっています。このように、薬剤の相互作用にも注意が必要なため、患者さんご自身が内服している薬剤を正確に歯科医師に伝えることはとても重要です。
(1) 禁煙による歯周組織への影響
禁煙による歯周組織への影響については、以下の報告があります。
歯周炎ではない喫煙者16名(男性、25.3 ± 4.0歳)の禁煙から1、3、5日後、1、2、4、8週後の歯肉血流量(GBF)と歯肉溝滲出液量(歯と歯肉の隙間に漏出した炎症性産物、GCF)を評価した報告です。その結果、ベースライン時の喫煙者のGBF率とGCF量は、非喫煙健常者(11名、24.4 ± 1.2歳)に比べ有意に低下していましたが、GBF率は禁煙3日後に有意に上昇し、5日後で非喫煙者レベルまで回復し、一方、GCF量は禁煙5日後に有意に増加し、2週後には非喫煙者レベルまで回復していました。
(2) 歯周治療に対する禁煙の効果
3群の歯周炎患者(非喫煙者28名、前喫煙者55名、喫煙者60名)において局所麻酔下でのスケーリング・ルートプレーニング(SRP)処置に対して、処置前と治癒後(処置3カ月後)の臨床的、細菌学的改善効果が比較されています。すなわち、非喫煙者と前喫煙者ではほぼ同程度の改善を示したのに対して、喫煙者群は、歯周ポケット(PD)減少量および減少率や臨床的アタッチメントレベル(CAL)獲得量及び歯周病関連細菌の1つであるPorohyromonas gingivalisの検出率は、他の2群に比べ有意に悪化していました。
(テーマパーク8020より引用)
従来、喫煙の蓄積効果のリスク(歯周病の場合、治療後のエンドポイントである歯の喪失リスク)が禁煙により非喫煙者のレベルまで減少するのに5~10年必要であることが示唆されています。歯の喪失リスクに関しては、ボストンの退役軍人789名(男性、非喫煙者264名、50 ± 10歳、前喫煙者283名、49 ± 9歳、喫煙者242名、45 ± 8歳)を1968年から最長35年間前向きに観察した研究で検討されています。すなわち、ベースライン時の喫煙者242名を、その後の禁煙者129名と喫煙継続者113名に分けて、3年毎に、現在歯数や歯周病所見を評価した結果、非喫煙者に比べて、喫煙者では、歯の喪失リスクは、2.1(95%CI 1.5-3.1)であったものが、禁煙1年後からそのリスクの低下が始まり、禁煙後10年で有意なリスクではなくなり(1.6(95%CI 0.9-2.9))、ほぼ同じリスクになるのが、13~15年になる(1.0(95%CI 0.5-2.2))というものです(図6)。
一方、別の大規模集団(男性の医師、歯科医師51,529名(40~75歳)を対象とした前向き調査)での同様の調査では、非喫煙者に比較して、喫煙者では高い歯の喪失リスクをもっているのですが、禁煙によりそのリスクが徐々に低下していくものの、10年以上経過しても、20%(95%CI 1.1-1.3)の歯の喪失リスクがあることを報告しています。
以上の報告をまとめると、喫煙者の歯肉微小循環は禁煙後の早い段階で回復し、喫煙により抑制されていた歯肉の炎症徴候や歯周治療後の治療反応性も改善し、歯周組織が早期に回復することが示唆されました。一方、アウトカムとしての歯の喪失に対する抑制には、10年以上が必要となります。
う蝕や歯周病、歯列不正などで訪れた歯科医院や病院歯科での禁煙支援は、現時点では、「歯科でまさか禁煙支援!」とは想定していないだけに重要です。
例えば、歯科医院を訪れた患者さんが一人、歯科での禁煙支援がきっかけで禁煙に成功したとします。もちろん、危険因子となっていた歯周病は改善され、口腔がんのリスクは減少し、味覚が正常となり、楽しい食生活となるでしょう。しかし、それだけではありません。お口(口腔)以外の全ての臓器も同様に、危険因子がなくなることで、色々な病気のリスクが減少します。さらに、同居する家族、友人、職場、道ですれ違う不特定多数の人々等の受動喫煙、三次喫煙もなくなり、計り知れないメリットだらけです。今まで、お口(口腔)の病気の危険因子で、このような波及効果のあるものはありません。
タバコから「大切なひとだけでなく、その周囲を守る」ため、今後は、歯科からも積極的に禁煙支援を始めます。